2020.01.09
【コラム】今さら聞けない IOTって何?
今、大きなデジタル変革の波が押し寄せて来ています。内閣府は、第4次産業革命を牽引する技術革新の一つ目として、IoTおよびビッグデータを挙げています。なぜIoTがここまで革新的と言われているのでしょうか?IoTが自社事業に変革をもたらす可能性はないのでしょうか?もう一度IoTについて考えてみましょう。
今、大きなデジタル変革の波が押し寄せて来ています。内閣府は、第4次産業革命を牽引する技術革新の一つ目として、IoTおよびビッグデータを挙げています。なぜIoTがここまで革新的と言われているのでしょうか?IoTが自社事業に変革をもたらす可能性はないのでしょうか?もう一度IoTについて考えてみましょう。
IoTとは「Internet of Things」の略語で、「モノのインターネット」と訳されています。従来のインターネットサービスは、PCやスマートフォンなど、通信機器と呼ばれる一部の機器をインターネットにつなげて、ウェブやメールといった手段で、ヒト同士のコミュニケーションツールとして活用されてきました。今までのヒトとヒトをつなぐことを主としてきたインターネットの世界に、モノとモノをつなぐという考え方を取り入れたのがIoTです。
身の回りにあるあらゆるモノ、それらが全てインターネットにつながっていると考えてみてください。炊飯器や冷蔵庫、エアコン、照明器具、子供が放り出したままのランドセルや紛失してしまったボールペン、下駄箱の中のスニーカー、ありとあらゆるモノがインターネットにつながると一体どんなことが起こるのでしょうか?では、具体的に考えていく前にIoTの基本的な構成をおさえておきましょう。
IoTは以下の4つの要素で構成されています。
(1)各種電子機器
必要なデータを取得しクラウドへ送信する、センサー、ビーコン、メーターなどの機器
(2)商品
インターネット化するさまざまなモノ
(3)ネットワーク
モノとクラウドとの通信設備
(4)アプリケーション
モノから送られてきたデータを、人にわかりやすい形で表示したり、分析を行ったりする
IoTが実現可能となった背景には「電子機器の小型化」と「無線技術の発展」という2つの大きな要因があります。センシング技術の向上により、高性能でかつ小型のセンサーが大量に出回ることで、モノにセンサーを内蔵することが容易になりました。また、IoTでモノとつながるためには、ほぼ全て無線での通信環境が必須となります。これらの技術的な発展がIoTの実現を後押ししました。IoTが現実的になっていくに従って、それに伴う経済効果にも注目が集まっていきました。
総務省の情報通信白書(平成29年度版)の「IoT時代におけるICT経済の諸課題に関する調査研究」によると、IoTやAIの活用が進展する場合の経済成長シナリオと、進展しない場合のベースシナリオに分けて比較した場合、市場規模では、ベースシナリオが1,224兆円に対し、経済成長シナリオでは1,495兆円との差が出る試算結果となりました。また、実質GDPで考えると、ベースシナリオが593兆円なのに対し、経済成長シナリオは725兆円となり、IoTやAIの進展は実質GDPを132兆円も押し上げる効果があることが明らかになりました。
また、同じく総務省の情報通信白書(平成30年度版)の「世界のIoTデバイス数の推移及び予測」によると、2017年時点で稼働数が多かったスマートフォンなどの「通信機器」は、市場が成熟し、今後は「自動車・輸送機器」「医療」「産業用途」などの他分野での高成長が予測されており、デバイス数も2020年には400億以上のモノがインターネットにつながると見られています。
ところで、そもそもモノをインターネットにつなげる目的というのは一体何なのでしょうか?
数年前から話題になっている、スマートフォンを使って外出先から家のエアコンのスイッチをONにする機能や、人感センサーを使って無人の部屋の照明を自動でOFFにする機能等、確かに便利ではありますが、これはIoTの序章でしかありません。IoTの醍醐味は、「活動状況のデジタル化」です。一人ひとりの意識的な行動から無意識レベルの行動まで、全てが身の回りのモノによってデータ化されてクラウド上に送られていきます。ウェアラブルデバイスは身体状態を記録して、バイタルデータをクラウド上へ逐一送っていきますし、調理機器は料理をするたびに毎日のメニューをクラウド上に格納するでしょう。鑑賞した映画やよく聴いている音楽、そろそろ美容院の予約を入れるタイミングなど、あらゆる行動が記録されてデータ化されていきます。更に、デジタル化は人の行動のみにとどまるものではありません。人々を取り巻く環境、道路や建物、交通、気象など、社会全体がデジタル化されていきます。道路やトンネルなどの老朽化を監視し、建物の安全性、気温や湿度の状態などのデータもクラウドに送られていきます。
IoTが送ってくるデータは膨大な量になることが容易に予測できます。これらのデータを有効に活用するために分析を行うのがAI(人工知能)です。AIにより大量のデータを解析し、最適な解決策を導出することができます。AIはこれまで、顧客データや売上データなど業務システム上で蓄積された構造化データと呼ばれているものと、SNSへの書き込みなどの非構造化データと呼ばれているものを合わせて、分析の対象としてきました。IoTから送出されるデータはビッグデータと呼ばれ、データの質の高さに期待が寄せられています。データの質が悪ければいくらAIで分析したところで意味がありません。逆に、質の良いデータを収集したとしても有効に活用できなければ意味がありません。IoTとAIはお互いを活かし合うベストパートナーなのです。
それでは、実際にIoTを活用した場合、どんなことができるようになるのか、具体的な例をみてみましょう。以下には、既に商品化されているモノも存在しています。
(1)ウェアラブル
・着るだけで心拍数や筋肉、体温がわかる服
・血糖値を管理できるコンタクトレンズ 等
(2)スマートシティ
・駐車場から空き情報データが送出されスマートフォンから確認できる
・自動販売機を監視カメラ化。地域の防犯や防災強化、災害情報の掲示板として利用
・街灯にセンサーを設置。交通量状況からエリアの最適な明るさを調節
・道路や信号、車内に設置されたカメラやセンサーが連携し交通管理を行う
・ドライバーレス 等
(3)ライフスタイル
・料理キットを購入し、調理機器にレシピをダウンロードする。具材をセットすれば料理が完成する
・毎朝の肌の状態に合わせて調合された美容液を抽出できる美容機器 等
(4)介護・医療
・センサーによりドアの開閉を検知。遠隔にて高齢者の安否確認を行う
・医療現場を遠隔地とつなげる 等
(5)農業
・レーダー付きドローンなどで虫食い部分を検出。対象の箇所にだけ農薬をまく低農薬農法が可能になる
・農場の温度や湿度を管理して自動調整
・データから分析された作物の美味しい作り方を実践する
・Webカメラによる見回り回数の削減 等
(6)工場
・エネルギー使用量などのラインの見える化で無駄を削減
・エラー検知などの監視作業 等
今まで売り切りだった商品を売った後に、月額制などのサービスにてビジネスを展開することができる、モノのサービス化という新しいビジネスモデルが誕生することは、大きな変革となります。
今後、IoTを推進する上での課題点は一体どういうものがあるでしょうか?
まず、プライバシーやセキュリティ、データの使用権などの問題が挙げられます。ヒトの行動データをもとに商品を最適化するためには、大量な行動データが必要になります。しかし、そもそもそのデータは一体誰のものなのか、そういった法律的な整備が必要になってきます。技術的には、あらゆるモノがつながっているという性質上、セキュリティを突かれてウィルスなどを仕込まれた場合、被害が拡大しやすいという課題があります。また、今までのインターネットの発展というのは、基本的にはPCやスマートフォンの画面の中の話、あくまでも仮想空間でのやりとりだったため、人命にかかわるような事態が発生する可能性が低かったのに対し、今後、モノとのやりとりが増えていくと、現実世界とダイレクトにつながっていくことになります。自動運転や交通管理などで、再び浮上してきた「トロッコ問題」のような倫理的な問題など、越えていく必要がある課題はたくさんあるのです。
IoTとは、IT技術の進化の中から生まれた新しい技術ではありますが、もはやそれは単なる技術を超えた、新しいビジネスモデルであり、社会変革そのものと捉えることができます。売り切りだったモノが、アップデートを繰り返し進化し続け、個々の利用者のパーソナリティに寄り添っていくというサービスに転換していく中で、経営者は事業課題を明確にし、自社のビジネスにどう取り組んでいくのかをもう一度見直してみてはいかがでしょうか?